「地方に移住したら、エンジニアとして成長し続けられるのだろうか。」
移住を考えるITエンジニアから、よく聞かれる不安の一つです。
仕事はあるのか。技術に触れ続けられるのか。相談できる仲間はいるのか。最新の情報から取り残されることはないのか――。
そんな疑問を抱きながらIT WORKS@島根の特派員キベが訪れたのは、島根県益田市で開催された「Iwami Tech Commons #6 みんなの仕事の今を教えて!」。

会場となったのは益田駅前ビルEAGA。参加者は約30人。募集枠は満員となり、地元だけでなく広島や名古屋、福岡など県外からの参加者も集まっていました。
「地方のIT勉強会」と聞くと、小規模で内輪の集まりを想像する人もいるかもしれません。しかし会場で交わされていたのは、AI時代のエンジニアの働き方や地域DX、ローカルLLM、パラレルキャリアなど、都市部の技術イベントでも十分に通用するテーマばかりでした。

「地方だから仕事がない」ではなく、「AI時代にどう価値を生み出すか」
第1部では、島根県情報産業協会会長の井上浩さんが「島根の情報産業のこれから」をテーマに講演しました。

講演では、オープンソースソフトウェア(OSS)の歴史や島根県が長年取り組んできたOSS振興、Rubyコミュニティの発展などが紹介されました。
島根県は、プログラミング言語「Ruby」の生みの親・まつもとゆきひろ氏との縁をきっかけに、OSSを地域産業の柱の一つとして育ててきました。その積み重ねが、現在のIT企業の集積や技術コミュニティにつながっています。
そして講演の後半では、AIによる変化へと話題が移ります。
AIによってコードを書くこと自体の価値が変わり始め、人月を積み上げる従来型の受託開発だけでは難しい時代になるかもしれない。一方で、OSSやAIによってITリテラシーは誰もが身に付けられる「民主化」の時代に入りつつある、と井上さんは語ります。

だからこそ求められるのは、「コードを書く人」ではなく、地域や企業の課題を理解し、AIも活用しながら価値を生み出せるエンジニアです。
講演後の質疑応答では、「島根県西部で仕事を増やすにはどうすればよいか」というテーマでも議論が交わされました。
地方だから仕事がないのではなく、地方だからこそ必要とされる仕事をどう生み出すのか。その視点が、この日のイベント全体を通して流れていたように感じました。
現場で挑戦する人たちの「今」が見えたライトニングトーク
続くライトニングトーク(LT)では、参加者それぞれが現在取り組んでいる仕事や挑戦について紹介しました。
どの発表にも共通していたのは、「AIをどう使うか」ではなく、「AIを使って地域や仕事をどう変えていくか」という視点でした。
ローカルLLMで、高齢者を見守る

名古屋から参加したエンジニアは、自宅のPC上で動くローカルLLMを活用した見守りシステムを紹介しました。
クラウドAIではなくローカルLLMを採用することで、利用コストやデータ流出のリスクを抑えながら、高齢者への見守りを実現するという取り組みです。
印象的だったのは、「AIに任せきりにしない」という考え方でした。
AIが判断し、人が最終確認を行う「Human in the Loop」の仕組みを取り入れることで、安全性と実用性の両立を目指しているといいます。
地方企業に、本当に必要なシステムを届けるために

「地方に仕事を持ってくるには?」というテーマで登壇した参加者は、「システムを作る前に現場へ入る」という考え方を紹介しました。
例えば製造業なら、実際にヘルメットをかぶって工場へ入り、現場の業務を体験する。
その上で課題を理解し、本当に必要なシステムを提案する。
さらに一社専属ではなく、複数の企業と関わる「パラレルエンジニア」という新しい働き方にも挑戦しているといいます。
AI時代だからこそ、「現場を理解できるエンジニア」の価値は、むしろ高まるのではないか。そんなメッセージが伝わってきました。
AI時代に必要なのは、技術だけではない

教育事業に携わる参加者は、AIを経営や組織づくりへ活用する研究を紹介しました。
AIを導入するには、単にツールを導入すればよいわけではありません。
経営者が何を目指すのかを明確にし、業務を整理し、目標を数値化する。その土台があって初めてAIが力を発揮する――。
技術だけではなく、経営や現場理解まで視野に入れた話は、これからのエンジニア像を考えさせられる内容でした。
地域コミュニティを育てるIT

津和野町でゲストハウス兼コミュニティスペースを運営する参加者の発表も印象的でした。
高校生が地域の高齢者へLINEの使い方を教えたり、海外からの旅行者と交流したり、IT合宿を開催したり。
ITは、単にシステムを作るためだけではなく、人と人をつなぎ、地域を育てるための手段にもなっていました。
「仕事があるか」だけではなく、「仲間がいるか」

イベントを通して、もう一つ強く感じたことがあります。
それは、このコミュニティを支えている人の多くが移住者だったことです。
主催者の一人である中道さんも移住者で、「地元で一緒に活動する仲間がほしかった」という思いから、このコミュニティを立ち上げたそうです。
会場にはエンジニアだけでなく、行政職員、教育関係者、企業経営者、フリーランスなど、多様な立場の人が集まっていました。
イベント終了後には、そのまま懇親会へ向かう参加者も多く、技術の話だけでなく、地域での仕事づくりや新しい取り組みについて自然と会話が続いていました。
都市部では技術イベントの数は多いかもしれません。しかし、ここでは行政と企業、教育、地域コミュニティが一つのテーブルを囲み、新しい挑戦が生まれていく距離の近さがあります。
移住しても、成長は止まらない

「地方へ移住すると、技術者として成長できなくなる。」
そんなイメージを持つ人は少なくありません。
しかし、この日出会った人たちは、その逆を証明しているように見えました。
AI時代だからこそ、コードを書く技術だけでは差別化できなくなる。
だからこそ、地域を知り、人を知り、課題を知ることが、新しい価値になる。
そして、その挑戦を支える仲間が、この地域には確かに存在していました。
移住先を考えるとき、「仕事があるか」はもちろん重要です。
けれど、それと同じくらい大切なのは、「一緒に学び、挑戦できる仲間がいるか」。
Iwami Tech Commonsは、その答えの一つを示してくれるコミュニティでした。

Iwami Tech Commonsのイベントをチェックするなら下のURLから。
今回のイベントの資料もアップされています。
https://iwami-tech-commons.connpass.com/
気になるイベントがあれば、上記connpassのページからそのまま参加申し込みができます。この記事を読んで「行ってみたい」と思った方は、ぜひ次回以降の開催に足を運んでみてください。
また、connpassでIwami Tech Commonsの「グループメンバー」になっておくと、新しいイベントが公開された際にメールでお知らせが届きます。開催情報を見逃したくない方は、メンバー登録をしておくのがおすすめです。
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